「その日、私は勤めていた土木会社の社内野球大会で一塁を守っていました。

中学生の頃、野球部でショートで5番を打っていた私は朝から張り切っていたのです。

2回の裏、相手バッターの打った打球がフラフラと一塁方向に上がりました。
「よしっ!!もらった。」
野球少年だった私はイメージの中でその打球を猛ダッシュで追いかけ、華麗にダイビングキャッチを試みましたが・・・。

しかし、現実にそこにいたのは40歳を過ぎたさえないオジサンになった私。
かつての野球少年の足はもつれ、打球を見失い、次の瞬間には頭からグラウンドに突っ込み、ごろごろっと2回転ほど転げまわりました。

その瞬間、『ボキッ』っと鈍い音が足元で聞こえました。

グラウンドに大の字になって横たわる私の目の前には青く青く広い空に、ぷかぷかと浮かぶ真っ白な雲。

「なんて、きれいな青空なんだろう。」
そう思いながらゆったりと時間が過ぎるのに身をまかせていると、私の顔をのぞき込む会社の人たちの顔が次々と現れて、こう言います。

「大丈夫か?」
その声で我に返った私は左の太ももの辺りに違和感を感じ始めました。その違和感を確かめようと足元を見ると、私の左脚は股関節から「くの字」に折れ曲がっていました。
次の瞬間激痛が襲います。

「痛い!!」

私の左脚が悲鳴を上げています。
痛みが脚となっているのか、脚のどこかの一部が痛みを感じているのか、何が起こっているのか、夢の中なのか現実なのか、どこにいるのか、周りに誰がいるのか、ここで何をしているのか、気持ちがバラバラになり、今の自分の状態がまったく、理解できません。

そのまま地元の外科病院に救急搬送された私はそれから4時間の間、病室で痛みと一緒に過ごすことになりました。外科の先生が手術中で診察ができないと言われました。
田舎の病院には先生が少ないのです。

人間の身体って不思議ですね。
痛みが激しいはずなのにしばらくすると痛みを感じなくなるんです。
病室で横たわったまま
「このまま深く眠りたい」
と思っている自分がいました。

痛みを感じない自分がそこにいました。
長い長いとても長くて短い時間が過ぎました。

このまま眠ってしまいたいと思いながら実際に寝ていたのか起きていたのか分からないまま、どれくらいの時間が過ぎたのでしょうか。ようやく担当の先生が現れ診察が始まりました。

すでに自分で脚が痛いのか、無痛なのか、よく分からない。
「どうせ、脱臼だろう。すぐに治るさ」

そう自分に言い聞かせていましたが、くの字に折れ曲がったままの左脚が目に入るたびに、何かしら深い深い不安感が心に広がっていきました。

MRIを取り終えてから、外科の先生がこう言いいました。
「酒井さん、これはたいへんですよ。左脚が大腿骨から脱臼してて、さらに悪いことに複雑骨折していて骨が粉々になって砕けています。」

よく、分からなかった。
先生の言っていることがよく分からなかった。
分かりたくなかった。

だたの脱臼だと思っていたし、そんなに重症のはずじゃない。
オレはそんな重症の怪我をする人間じゃない。
だから、先生の言っていることがよく分からなかった。

外科の先生が言う。
「早くても全治6ヶ月。これから足をひっぱって元の位置に戻さないといけませんが、もし、戻らない場合には切開をして緊急手術をします。普通に歩けるようになるかどうかは分かりません。」

それからはよく覚えていない。
手術室でたくさんの看護士さんや先生が麻酔の効いた俺の左脚に何かをしていた。

いろんな装置の音がしていた。看護師さんが
「ダメだねえ。入らないね。」
という。

先生がうんうんとうなりながら左脚を引っ張っている。
ゴリゴリという音がする。

ピコピコピコピコ・・・心電図の音だろうか。
ものすごい速さで絶え間なく鳴っている。
これは自分の心臓の音?その音を聞きながら
「こんな時間は早く過ぎ去ってくれ」
と願っている。

でも、さっきからぜんぜん事態は変わっていないことが周りの声から分かる。分かるけど、その状態にいるのは自分のことなのかどうかはっきりしない。夢なのだろうか。よく分からない。
麻酔で痛みはない。目の前には手術室の明かり。
看護師さんの顔、顔、顔・・・。よく覚えていない。

それからどれくらい経ったのだろうか。
ゴキっという音が身体の中で鳴ったのを感じた。

「入った。」
そんな声が耳に入ってきた。

手術室から病室に移されてベッドで横たわって天井を見ていると、先生が病室に入ってきてこう言った。

「骨は元の位置に戻りました。でも、絶対安静です。脚を牽引するのでこれから3週間は上を向いたまま、天井を見たままの今の状態で過ごしてください。トイレも食事もそのままです。横たわったまま、
上を向いたままで全部してください。寝返りも絶対にしないでください。ベッドで上を向いたままの姿勢でいてください。」

病室から出て行く先生を見ながら、
「なんで俺はこんなことになったんだろう。」
と、昔のことを思い出していた・・・。」

  


10月になると上に書いた野球大会や病院のことを思い出します。実は上記の出来事が起こったのは10月です。あの年の10月から私の人生はガラッと大きく変わりました。

そのときの私は、借金を抱えて、無職、無収入で全治6ヶ月の私でした。


今は毎週、北は北海道から南は九州まで周る講演家になりました。


人生は不思議ですね・・・。
その間の真実と詳細は下記の動画で話しています。

▼酒井とし夫の動画
どん底からの大逆転!人生終わったと思った時が好運の始まり
  


もしかしたら今、このブログを読んでいる人の中にも悩みやもがきの渦中にいる人がいるかもしれませんが、
災いを転じて福となす、
雨降って地固まる、
怪我の功名、
人生万事塞翁が馬、
結果オーライ・・・・となることもあります。


あきらめなければ
それは失敗ではない。